第2話 始発
月島はいつも始発電車で病院に向かう。正確には電車ではなくモノレールであるが。そして彼の乗る駅は始発駅である。つまり始発駅の始発電車である。そのモノレールは五時三十三分に発車し、その十分ほど前から駅に停車している。車両は四両編成で、月島は前から二両目に乗ることが多い。特にこだわりが強い性格ではないが、一両目に乗り込むことはない。モノレールはその構造上、正面衝突の可能性はまずないが、かなりの高所を走行している。脱線時は地上十メートルから飛び降りるようなものだ。先頭車両への衝撃は相当である。もちろん二両目も落下することに変わりはないが、その時は一両目がクッションになってくれる。月島はそんな風に思っている。
始発電車は乗客がまばらである。特にこの時期、辺りはまだ薄暗く、氷点下になれば駅と降車場を繋ぐ陸橋にはうっすらと氷が張る。好き好んでやってくる奴など誰もいない。皆、この始発に乗らなければならない何らかの理由があるのだ。そして彼らは自然と顔見知りになる。とは言っても言葉を交わすことはない。どこに住んでいるのか、どこに行くのか、何をしているのか、月島は何も知らない。
こんな始発電車も、多くの学生で賑わうことがある。彼らは皆、楽しそう騒いでいる。きっと修学旅行なのだ。このモノレールは空港に繋がっているし、彼らは大きなスーツケースを慣れない手つきで運んでいる。そしてどういう訳か二両目に乗ってくることが多い。月島はモノレールの中でN Engl J Medの最新論文を読むことにしているため、落ち着いた環境が望ましい。だからそんな若者の集団に遭遇した時だけ、そっと三両目の車両に移動する。
月島は十年ほど前、通勤をマイカーからモノレールに変更した。そして暫くすると、二両目の後方ドアから入って、向かいにある長シートの左端をマイシートに決めた。優先座席を除くとシートはピンク色のしっとりとした布製で、少し柔らかめのクッションは快適とまでは言えないが、不快というほどのものでもない。もちろん公共機関のシートとしては合格である。月島はその場所を次第に気に入るようになった。
週に一~二度の頻度ではあるが、そのシートが他人に占拠されていることがあった。月島は仕方なく空いている別の席(ほとんどが空いている)に座るが、どうも居心地がよくない。うまく表現できないが、論文を読み始めてもあまり頭に入ってこない気がする。論文はすべて英語で書かれているが、語学的な問題ではない。むしろ科学的な記述は日本語よりも英語の方によほど分があると月島は思っている。次の駅に着いても、異なる席であるという違和感が頭から離れない。朝に躓くとその日全体の流れにも悪影響を及ぼすのではないかという気すらしてくる。そんな非科学的なことなど有り得ないとは分かってはいるが、どうにも止められない。
いつもの定位置を常に確保するためには、より早く駅に到着さえすればいい。十分も前に駅に到着すれば充分だろう。早起きが苦にならない月島にとってはなんてことはない。朝の十分は日中や夜間の十分とは違うという人もいる。しかし十分は十分である。月島はそんな風に考えている。しかし彼はこのマイシート問題を解決するために、他の合理的な方法を採用した。自分の定位置を決めないことである。空いている席(とはいっても他人から一メートル程の間隔を空けるが)に座れるだけである。月島はこのようなやり方で、ストレスを感じることなく公共交通を利用して通勤している。
ただし今でも幾つかのルールには固執している。一つ目は乗り込むときにドア側の席に座ることはない。これはモノレールが南に向かって走り出すためだ。ドア側の席では朝日と対峙しなければならない時がある。眩しくて論文が読みにくくなる。二つ目は、車両の両端にある小さめのシートには腰掛けない。これは中央にある長シートに比べて、電車の揺れがより大きく感じられるからである。実際に振動が大きいか否かは分からないが、論文に集中できないことは確かだ。
*
その日は、かつてのマイシートに座った。駅に到着した時間はいつものと同じであるが、その車両には乗客が他に一人しかいなかった。モノレールが発車して論文を読み始めるまでの数分間に、月島が必ず行うことがある。自ら運営するホームページに問題がないかを確認するのだ。月島は複数の教育コンテンツを定期的に、少なくとも毎日一つか二つを投稿する。年末年始も休まない。もっともすべて前もって作成し、自動的に投稿されるよう設定していのだ。コンテンツがアップされる時間はすべて五時三十分にしている。モノレールが動き出す三十三分までの三分間を、それらの確認時間に当てている。僅かな時間ではあるが、月島には十分である。ミスがあること自体が稀なのだ。仮にあったとしても極些細なものである。その場でスマホから容易に修正できる。
その日の投稿のテーマは嚥下性失神であった。長年診ている高齢の患者さんが、食事中に一瞬意識を失ったと教えてくれた。状況などから不整脈などの循環器疾患は考えにくかったため、嚥下機能の評価も兼ねて耳鼻咽喉科をコンサルトしたのだった。すると嚥下性失神の疑いと診断され、食事指導まで受けて帰ってきた。あまり馴染みのない病態だったので、非専門医にも分かりやすいようまとめてブログにアップしたのだ。
何か迫ってくる気配を感じたのは、そんなコンテンツをチェックしている時であった。思わず顔を上げると、すぐ前のドアから足早に向かってくる女性に気づいた。彼女は月島の目の前を慌ただしく過ぎ去ると、車両の前よりにある短いシートの左端にドンと座った。それと同時に、その席の前にあるドアから弱々しく歩いてきた六十代後半であろうか、ベージュのトレンチコートを着た痩せた男性が、少し戸惑った様子で立ちすくんでいるのが視界に入った。恐らく彼女が座った席を目指して、すぐ前にあるドアから乗り込んできたのであろう。目的のシートを突然奪われた高齢者は、少し寂しそうな顔で彼女とは逆の右端にゆっくりと腰を下ろした。
*
彼女のことは月島もよく知っている。個人的なことは分からないが、いつもこの始発電車で会う。年のころは三十歳になったばかりであろうか、この時期はいつも先の尖がったニットの帽子をかぶっている。縁の太い黒ぶちの眼鏡をかけて、少し小さめの黒っぽいリックサックを背負っている。どちらかというと細くて、さっぱりとした雰囲気の女性である。色白の小さい顔で鼻筋も通っているが、魅力的な女性とは言えない。うまく説明できないが、異性からは好意的に見られることが少ないタイプだと月島はかねがね思っていた。
彼女の席は決まって二両目の前よりの短いシートの左端である。そこに座るといつも背中のリックサックからプレイステーションポータルを取り出して熱心に何かをしている。ゲームと思うがボタン操作は比較的ゆっくりだ。一度降りるときにそっと覗いてみたが、よく分からなかった。いずれにせよ月島が魅力を感じる女性像とはかなり離れたところに位置する異性である。
月島は彼女の慌てる様子を一度も見たことがなかった。いつも発車のきっかり一分前に二両目の前よりのドアから乗っきて、向かいのシートの左端に座る。これが彼女のルーチンである。どういう訳だか、その席は彼女が来るまで空いていることがほとんどである。彼女の独特の雰囲気が、他の常連客をその席から遠ざけているのではないかと月島は分析していた。しかし今朝のように、普段から始発電車を利用てしない乗客が紛れ込んできた時には、この辺の暗黙のルールは脆くも崩れる。
今までに何度か、新参者が彼女の席に座ってしまうことがあった。そんな時に月島は内心ワクワクした。彼女が乗り込んできて、自分の席に他人が座っていると知った時の反応が楽しみだからだ。そんな時、彼女は不満を表面に表すことは決してない。「私は席なんてどこでもいいのよ」とでも言うようなそぶりで、すぐ近くの席に座る。そしてカバンから機械を取り出して(多分)ゲームを始める。しかし月島には彼女の不満が手に取るように分かるのだ。決して顔にこそ出さないにしても、全身から溢れ出る眼に見えない何かが、彼女の魅力的ではない雰囲気を一層醜くする。 そんなストレスに晒された彼女を目にして、月島は内心ほくそ笑んだりする。
余談であるが彼女は毎朝、駅まで車で送ってもらっている。国産車であるが(この地区はベンツやBMW、アウディーなどのドイツ車がとても多い)、いわゆる高級車の部類である。運転者は二回り程年上の男性で、きっとの父親なのであろう。彼女は助手席から降りて、駅の改札へ続く陸橋の中ほどで、必ず振り返って笑顔で男性に右手を振る。運転手の男性はそれを見届けてから、ゆっくりと降車場を離れる。そして彼女は改札へ踵を戻す。月島はそんなシーンを何度か遠くから見たことがあったが、いつも何とも言えない違和感を感じていた。車内で見かける彼女の振舞とはずいぶん異なるからだ。
*
彼女は今朝、先程の男性と争った。そして表面上は勝利した。「ここは私の席なんだから、あんたはあっちにいって」という心の声が聞こえてきそうである。少なくとも月島はそう思っていた。席に座った彼女はいつにも増して頬が赤らみ、いつにも増して醜くく見えた。我を通し何かを達成しても、逆に不満が募ることは稀ではない。今回もその一つの例を見たような気分であった。彼女はプライドが高い。そして内面が美しくない。月島はそんな風に確信した。
月島には取り立てて、嬉しさや悲しさの感情はなかった。強いて言えば、その高齢者を少し不憫に思うくらいだ。彼女には興味もなければ、今後関わり合うこともないであろう.月島は自分のルーチンに戻った。ブログには余分なひらがなが一文字あったので削除した。そしてカバンから今週のN Engl J Medの論文を取り出し読み始めた。抄録の結語の手前まで読んだ時,モノレールが音もなく動き出した。彼女を横目で見ると、まだゲームはしていなかった。じっと前を向いて息を整えようとしているようだ。あまり心地の良い眺めではなった。月島はそっと眼を閉じて,今朝目の前で起こった数秒足らずのシーンを頭の中から削除しようとした。
月島が論文の閲覧に戻った時,モノレールは次の駅に着こうとしていた。
始発電車は乗客がまばらである。特にこの時期、辺りはまだ薄暗く、氷点下になれば駅と降車場を繋ぐ陸橋にはうっすらと氷が張る。好き好んでやってくる奴など誰もいない。皆、この始発に乗らなければならない何らかの理由があるのだ。そして彼らは自然と顔見知りになる。とは言っても言葉を交わすことはない。どこに住んでいるのか、どこに行くのか、何をしているのか、月島は何も知らない。
こんな始発電車も、多くの学生で賑わうことがある。彼らは皆、楽しそう騒いでいる。きっと修学旅行なのだ。このモノレールは空港に繋がっているし、彼らは大きなスーツケースを慣れない手つきで運んでいる。そしてどういう訳か二両目に乗ってくることが多い。月島はモノレールの中でN Engl J Medの最新論文を読むことにしているため、落ち着いた環境が望ましい。だからそんな若者の集団に遭遇した時だけ、そっと三両目の車両に移動する。
月島は十年ほど前、通勤をマイカーからモノレールに変更した。そして暫くすると、二両目の後方ドアから入って、向かいにある長シートの左端をマイシートに決めた。優先座席を除くとシートはピンク色のしっとりとした布製で、少し柔らかめのクッションは快適とまでは言えないが、不快というほどのものでもない。もちろん公共機関のシートとしては合格である。月島はその場所を次第に気に入るようになった。
週に一~二度の頻度ではあるが、そのシートが他人に占拠されていることがあった。月島は仕方なく空いている別の席(ほとんどが空いている)に座るが、どうも居心地がよくない。うまく表現できないが、論文を読み始めてもあまり頭に入ってこない気がする。論文はすべて英語で書かれているが、語学的な問題ではない。むしろ科学的な記述は日本語よりも英語の方によほど分があると月島は思っている。次の駅に着いても、異なる席であるという違和感が頭から離れない。朝に躓くとその日全体の流れにも悪影響を及ぼすのではないかという気すらしてくる。そんな非科学的なことなど有り得ないとは分かってはいるが、どうにも止められない。
いつもの定位置を常に確保するためには、より早く駅に到着さえすればいい。十分も前に駅に到着すれば充分だろう。早起きが苦にならない月島にとってはなんてことはない。朝の十分は日中や夜間の十分とは違うという人もいる。しかし十分は十分である。月島はそんな風に考えている。しかし彼はこのマイシート問題を解決するために、他の合理的な方法を採用した。自分の定位置を決めないことである。空いている席(とはいっても他人から一メートル程の間隔を空けるが)に座れるだけである。月島はこのようなやり方で、ストレスを感じることなく公共交通を利用して通勤している。
ただし今でも幾つかのルールには固執している。一つ目は乗り込むときにドア側の席に座ることはない。これはモノレールが南に向かって走り出すためだ。ドア側の席では朝日と対峙しなければならない時がある。眩しくて論文が読みにくくなる。二つ目は、車両の両端にある小さめのシートには腰掛けない。これは中央にある長シートに比べて、電車の揺れがより大きく感じられるからである。実際に振動が大きいか否かは分からないが、論文に集中できないことは確かだ。
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その日は、かつてのマイシートに座った。駅に到着した時間はいつものと同じであるが、その車両には乗客が他に一人しかいなかった。モノレールが発車して論文を読み始めるまでの数分間に、月島が必ず行うことがある。自ら運営するホームページに問題がないかを確認するのだ。月島は複数の教育コンテンツを定期的に、少なくとも毎日一つか二つを投稿する。年末年始も休まない。もっともすべて前もって作成し、自動的に投稿されるよう設定していのだ。コンテンツがアップされる時間はすべて五時三十分にしている。モノレールが動き出す三十三分までの三分間を、それらの確認時間に当てている。僅かな時間ではあるが、月島には十分である。ミスがあること自体が稀なのだ。仮にあったとしても極些細なものである。その場でスマホから容易に修正できる。
その日の投稿のテーマは嚥下性失神であった。長年診ている高齢の患者さんが、食事中に一瞬意識を失ったと教えてくれた。状況などから不整脈などの循環器疾患は考えにくかったため、嚥下機能の評価も兼ねて耳鼻咽喉科をコンサルトしたのだった。すると嚥下性失神の疑いと診断され、食事指導まで受けて帰ってきた。あまり馴染みのない病態だったので、非専門医にも分かりやすいようまとめてブログにアップしたのだ。
何か迫ってくる気配を感じたのは、そんなコンテンツをチェックしている時であった。思わず顔を上げると、すぐ前のドアから足早に向かってくる女性に気づいた。彼女は月島の目の前を慌ただしく過ぎ去ると、車両の前よりにある短いシートの左端にドンと座った。それと同時に、その席の前にあるドアから弱々しく歩いてきた六十代後半であろうか、ベージュのトレンチコートを着た痩せた男性が、少し戸惑った様子で立ちすくんでいるのが視界に入った。恐らく彼女が座った席を目指して、すぐ前にあるドアから乗り込んできたのであろう。目的のシートを突然奪われた高齢者は、少し寂しそうな顔で彼女とは逆の右端にゆっくりと腰を下ろした。
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彼女のことは月島もよく知っている。個人的なことは分からないが、いつもこの始発電車で会う。年のころは三十歳になったばかりであろうか、この時期はいつも先の尖がったニットの帽子をかぶっている。縁の太い黒ぶちの眼鏡をかけて、少し小さめの黒っぽいリックサックを背負っている。どちらかというと細くて、さっぱりとした雰囲気の女性である。色白の小さい顔で鼻筋も通っているが、魅力的な女性とは言えない。うまく説明できないが、異性からは好意的に見られることが少ないタイプだと月島はかねがね思っていた。
彼女の席は決まって二両目の前よりの短いシートの左端である。そこに座るといつも背中のリックサックからプレイステーションポータルを取り出して熱心に何かをしている。ゲームと思うがボタン操作は比較的ゆっくりだ。一度降りるときにそっと覗いてみたが、よく分からなかった。いずれにせよ月島が魅力を感じる女性像とはかなり離れたところに位置する異性である。
月島は彼女の慌てる様子を一度も見たことがなかった。いつも発車のきっかり一分前に二両目の前よりのドアから乗っきて、向かいのシートの左端に座る。これが彼女のルーチンである。どういう訳だか、その席は彼女が来るまで空いていることがほとんどである。彼女の独特の雰囲気が、他の常連客をその席から遠ざけているのではないかと月島は分析していた。しかし今朝のように、普段から始発電車を利用てしない乗客が紛れ込んできた時には、この辺の暗黙のルールは脆くも崩れる。
今までに何度か、新参者が彼女の席に座ってしまうことがあった。そんな時に月島は内心ワクワクした。彼女が乗り込んできて、自分の席に他人が座っていると知った時の反応が楽しみだからだ。そんな時、彼女は不満を表面に表すことは決してない。「私は席なんてどこでもいいのよ」とでも言うようなそぶりで、すぐ近くの席に座る。そしてカバンから機械を取り出して(多分)ゲームを始める。しかし月島には彼女の不満が手に取るように分かるのだ。決して顔にこそ出さないにしても、全身から溢れ出る眼に見えない何かが、彼女の魅力的ではない雰囲気を一層醜くする。 そんなストレスに晒された彼女を目にして、月島は内心ほくそ笑んだりする。
余談であるが彼女は毎朝、駅まで車で送ってもらっている。国産車であるが(この地区はベンツやBMW、アウディーなどのドイツ車がとても多い)、いわゆる高級車の部類である。運転者は二回り程年上の男性で、きっとの父親なのであろう。彼女は助手席から降りて、駅の改札へ続く陸橋の中ほどで、必ず振り返って笑顔で男性に右手を振る。運転手の男性はそれを見届けてから、ゆっくりと降車場を離れる。そして彼女は改札へ踵を戻す。月島はそんなシーンを何度か遠くから見たことがあったが、いつも何とも言えない違和感を感じていた。車内で見かける彼女の振舞とはずいぶん異なるからだ。
*
彼女は今朝、先程の男性と争った。そして表面上は勝利した。「ここは私の席なんだから、あんたはあっちにいって」という心の声が聞こえてきそうである。少なくとも月島はそう思っていた。席に座った彼女はいつにも増して頬が赤らみ、いつにも増して醜くく見えた。我を通し何かを達成しても、逆に不満が募ることは稀ではない。今回もその一つの例を見たような気分であった。彼女はプライドが高い。そして内面が美しくない。月島はそんな風に確信した。
月島には取り立てて、嬉しさや悲しさの感情はなかった。強いて言えば、その高齢者を少し不憫に思うくらいだ。彼女には興味もなければ、今後関わり合うこともないであろう.月島は自分のルーチンに戻った。ブログには余分なひらがなが一文字あったので削除した。そしてカバンから今週のN Engl J Medの論文を取り出し読み始めた。抄録の結語の手前まで読んだ時,モノレールが音もなく動き出した。彼女を横目で見ると、まだゲームはしていなかった。じっと前を向いて息を整えようとしているようだ。あまり心地の良い眺めではなった。月島はそっと眼を閉じて,今朝目の前で起こった数秒足らずのシーンを頭の中から削除しようとした。
月島が論文の閲覧に戻った時,モノレールは次の駅に着こうとしていた。